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2026-03-27

【レポート】「昭和の庭から伝えたいもの 第2回 伊藤邦衛」 講演会・見学会

2026年2月14日に、日本庭園協会東京都支部による講座シリーズ「昭和の庭から伝えたいもの 第2回 伊藤邦衛」講演会・見学会を開催しました。

この講座シリーズは、日本庭園から学んだ造園家がそれぞれの個性を発揮しながら公共空間のデザインに取り組んでいた昭和時代の造園術から学ぶべく、当時活躍した造園家に焦点を当てて、そのお弟子さんにあたる方に師の作風や理念などについてのご講演をいただき、さらに現存する師の作品とお弟子さんご自身の作品を実際にご案内いただくという、座学と見学会を抱き合わせた実に丸一日がかりの講座です。

第1回は2024年10月に造園家の「中島 健」にスポットを当てて、高崎康隆さんを講師にお招きして開催しました。それに続く第2回目の今回は、日本各地で多くの公共作品を手掛けたことで知られる造園家「伊藤 邦衛」がテーマです。講師には伊藤氏の会社(伊藤造園設計事務所)の元所員であり、実際に伊藤氏の右腕として活躍された加園 貢さん(有限会社伊藤庭園工房)をお招きしました。

午前中は会場としてお借りした東京農大の教室で座学、そして午後の見学会では都内に残る伊藤氏の作品から大田黒公園と蚕糸の森公園、そして加園さんが造園設計を手掛けられた哲学堂公園内の「哲学の庭」を巡りました。今回も30名以上の多くの受講生が集まり、充実した一日を過ごしました。

伊藤氏は「造園空間は美しくなければならない」と口癖のように仰っていたそうです。
”造園施設は美しさこそ最も重要な機能である”という伊藤氏の理念から生み出されてきた多くの公共作品は、竣工から何十年と時を経た現代でも変わらず親しまれ続けています。これらは一目で伊藤邦衛の作品だ!とわかるほどに独特でありながらも、分かりやすい構成や意匠で工夫されていて、誰にでも親しみやすく愛着の湧く空間が創り出されています。
加園先生は、この独自性を発揮しつつ無駄を省き単純化することに長けた伊藤氏の造園センスは、独立前の清水建設社員時代の研鑽により基本姿勢がつくられたのではないかと考察されていました。

加園先生の優しく丁寧なお話の端々からは、いまも変わらない師への敬意が伝わってきます。伊藤氏のお人柄まで伝わってくるようなリアルなお話は、直弟子である加園先生ならではのもの。こういうお話が聞けるのも、この講座の魅力です。

さて、座学を終えた一行は貸切バスへ乗り込んで、杉並区の大田黒公園へ向かいます。

大田黒公園は音楽評論家の大田黒元雄氏の屋敷跡を杉並区が回遊式日本庭園として整備し、1981年に開園した公共施設です。伊藤氏が改修設計に携わり、加園先生も施工当時の現場を所員として経験されていたそうです。

伊藤氏は、日本庭園の池であっても単純な形にして、直線のデザインを好んで取り入れたそうです。大田黒公園の池も、池の隅の園路を兼ねた直線の縁が直角に折れ曲がる大胆なデザインになっています。ただ、伊藤氏は直角よりも鈍角を好んでいたそうなので、実はこれは少しイレギュラーとのこと。
池に張り出した東屋は、施工当時に材木の乾燥が足りず竣工後すぐに全体が捻れてしまい、急ぎ修繕したというエピソードには一同もびっくり。

大田黒公園では「造園空間は美しくなければならない」という伊藤氏の理念が随所から感じられました。特に鉄平石張りの園路の側溝部分の仕上げが美しく、伊藤氏の執念が強かにオーラを放っているのを感じました。当時の職人さんの仕事も実に素晴らしいものです。

大田黒公園を後にして、一行は蚕糸の森公園へ移動。

蚕糸の森公園はかつての蚕糸試験場の跡地に整備された区立公園で、隣地に誘致された杉並第十小学校の校庭が共用化されている(公園と校庭がつながっている!)という全国的にもめずらしい公園です。

公園に入るとランドマークの大壁泉が見えてきます。美しく庭園的な造形と、環七通りの喧騒をマスキングする水音が見事な「機能」を発揮しています。さらに、この壁泉は右半分と左半分の落ち口のレベルが変えられていて、経費節減のために片方だけ水を落とすことができ、それでも景観として不自然にならないように工夫されているそうです。

この大壁泉は一見すると工業的なデザインのようでいて、石柱のバランスはまるで石組みのよう。小端積みの壁面に水飛沫がかかる様は、完全に「庭園」の趣です。独特でありながら分かりやすい、伊藤氏のデザインの真骨頂です。

公園内は日本の伝統的な庭園デザインと現代の公園デザインがブレンドされたようなランドスケープが広がります。特に流れと池の水景には日本庭園の技が活かされていて、もともと庭園だったところに直線的な園路を通して公園にしたのかと錯覚させるような、不思議な魅力に溢れています。

最後の見学先は、加園先生が造園設計を手掛けられた中野区の哲学堂公園内にある「哲学の庭」です。
※「哲学の庭」の周辺では撮影が原則禁止されていますので、写真はありません。

この「哲学の庭」は、2009年の日本ハンガリー外交関係開設140年・国交回復50周年を記念して、人類の恒久平和の理想を追求したハンガリー出身の彫刻家ワグナー・ナンドール氏の群像彫刻作品として作られたものです。これと同様の作品がブタペストにも置かれているのだそうです。

哲学の庭 哲学堂公園公式ホームページ

当初この地に向き合った時に「私のやるべき仕事は多くない。」と感じたという加園先生(『ランドスケープデザイン』no.73, 2010, マルモ出版 より)。この広場の設計を通して”空間設計で何が最も大切か”を再認識したそうです。彫刻の配列と動線に秩序を与える円形の舗装モチーフを、ふっくらとした芝生の地形と植栽が包み込むシンプルなデザインには、彫刻の”器”としてのランドスケープの機能に専心した加園先生の思慮深さが表れていると感じました。

”造園施設は美しいということが最も重要な機能である” という伊藤氏の理念は、加園先生の感性の中に深く染み込み、直感的に先生の作品に表れて、こうして現代の私たちにも届いているのだと感じました。

その後、一行の貸切バスは新宿駅西口に到着し、今回の企画は無事に終了。

と、予定ではここまでだったのですが、気の利く運営メンバーが懇親会会場への道すがらに「四季の路(みち)」へ寄ることを提案。かつての軌道敷を整備した新宿遊歩道公園「四季の路」は、何を隠そう伊藤邦衛氏が手掛けた作品なのです。ここでもひときわ目を引くモザイク舗装が、一目で伊藤氏の作品とわかる独特のオーラを放っていました。
ともするとただの歩道になってしまうところを、庭園を巡るような体験に変えてしまう、こういうところが「造園家」の仕事なのだなと感じたのでした。

今回も大勢の方に受講いただき、大変充実した企画になりました。
中には学生さんも多く、運営一同この講座の魅力を再認識しています。
加園先生、ありがとうございました!
次回の企画にもどうぞご期待ください!

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